事務所に限らず、賃貸借契約では賃貸人(貸主)、賃借人(借主)共に法的な義務を負うことになります。契約書があるなしに関わらず、賃貸借契約を結べば、必然的に負う義務となります。
今回は、借主側がどのような義務を負うのかご説明したいと思います。
賃貸借契約、及び借主の定義
まず、賃貸借契約とは、「当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対して賃料を支払うことを約することによって効力が生じる契約」(民法第601条)のことです。そして、借主は、「賃貸借契約によって賃料を支払う側」ということになります。
1.賃料の支払義務
賃料を支払うのは当然のことですが、賃貸借契約においては、賃料の支払いは法的な義務として定められています。
実は、賃貸借契約における賃料は原則として後払いなのですが、事務所、住居に関わらず不動産の賃貸借契約は、先払いが一般的です。賃料関連のトラブルとしては、滞納がほとんどです。支払義務とは多少違いますが、増額・減額の請求でトラブルになることもあります。
2.善管注意義務
善管注意義務とは、「借主は、その引渡しをするまで、善良な管理者の注意をもって、その物を保存しなければならない。」(民法第400条)のことで、つまりは、一般的、客観的に要求される程度の注意をしなければならないという注意義務のことです。
賃貸借契約において、賃借人は目的物を使用する権利がありますが、どういう使い方をしても良いというものではなく、一般的、客観的にみて目的物の所有者や賃貸人の権利を侵害するような使用は認められないということです。つまり、借りてる物なので、返すまでは大切に使うということが義務化されているということですね。
3.用法遵守義務
賃貸借建物の場合、ほとんどの契約で使用用途が定められています。借主は、それに定められた用法に従って建物を利用しなければなりません。もし違反した場合は、貸主は相当の期間を定めて、利用方法を改めるように催告し、その期間を経てもなお改善されない場合は、用法遵守義務違反として契約を解除されてしまいます。
つまり、用法遵守義務に違反すると直に契約の解除もありうるということです。事務所として借りて飲食店を運営したり、静かなBARを運営するとして借りて大音量のクラブを運営したりすることも用法遵守義務違反になります。
4.目的物返還義務
契約が終了したときは、賃借人は、その目的物を原状回復して賃貸人に返還しなければなりません。(民法606条、597条1項、598条)
借りたものは返すといってしまえば当然ですね。借主の返還義務は建物の明け渡しですが、一方で貸主にも返還義務があります。それは敷金や保証金といった預り金のことですが、注意していただきたいのが、建物の明け渡しと敷金返還は同時履行の関係にないということ。目的物の返還をしてから敷金の返還の請求というのが原則ですので注意してください。
おわりに
以上、これらが民法上定められている借主の義務ということになります。契約書に書いていなくても、賃貸借契約を結べば、原則としてこれらの義務は負うということを認識しておいてください。
義務を怠り、契約違反となっってトラブルになった場合、「どこにも書いてないじゃないか」は通用しませんので注意してください。
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